LF-91003 PRO-USE SERIES 蒸気機関車
東芝EMI㈱は、このPRO-USE SERIESでアナログ録音の極限に迫るというコンセプトのもと、音楽だけでなく様々なジャンルの音を収めたレコードを発売しました。Beatlesファンの方には「ABBEY ROAD」のリマスター盤で有名だと思います。東芝音楽工業㈱の時代から蒸気機関車のレコードを発売していましたが、ヨンサントオ以降急速に無煙化が推し進められる中、最高の水準で蒸気機関車の音を残そうとこのシリーズで企画されたようです。
その意気込みはジャケットや解説書からも読み取れます。各社それぞれが力のこもった写真を多く採用する中、このシリーズでは紙面の多くをシリーズコンセプトや録音機材と録音環境の解説に割いています。他社の情報が少ないのでマシンパワーなどの比較は難しいですが、とても参考になる内容です。カッティングヘッドにSX-74が使われたそうですが、録音が1968年~1972年の間に行われたそうなので、本当に最新の機器を使用していたことがわかります。2023年現在でもこのノイマン社製のカッティングシステムが使われいるそうなので、マシンパワーはとても優秀だと言えると思います。
蒸気機関車のレコードでは「冬の急行ニセコ」が頻繁に登場します。国内最大機関車C62による重連運転、栄光のつばめマークなど記録すべきポイントの多い列車ですが、録音環境という観点で冬の澄んだ空気は大きな利点だったそうです。このA面も冬の急行ニセコから始まります。小沢駅を発する汽笛がとてもクリアに聞こえ少しづつ近づいてくるのがわかる臨場感のある素晴らしい音です。
続く4トラック目のC57牽引旅客列車の音は少し変わった環境で録音されたそうです。テンダー直後の客車のデッキ中央にマイクを据えたそうで、具体的には“デッキ内の小さな部屋的なものの中”とのことですが、はっきりとは書かれていません。その影響で、反響音も拾ってしまっているのですが、運転台添乗や一般的な客車添乗とは違った音を聞くことができます。汽笛の音は凄まじい迫力ですし(スピーカーなどの故障に注意と書かれているほど)、投炭など操作音や客車の雑踏の音が入っていないためトンネル通過や加減速などの変化を交えた走行音だけを聞くことができます。
5トラックの花輪線赤坂田駅を発車する8620とその後補機8620の音も良かったです。掠れ気味のフィー!という独特の音を大きく響かせて、勢いよく発車するのが印象的です。急勾配を登るために力強く発車していくのが伝わってきます。
B面ではC60の点検音が聞けます。コンプレッサーや発電機、ブレーキ弁の音に続いて打検の音が収録されています。打検の音を初めてまじまじと聞きましたが、各部で想像以上に音が違って面白いです。この録音は機関区の実習に使用されることになってプレゼントされたそうです。5トラックの9600を後部補機に従えたD51の音では、動輪経の違いがドラフト音のテンポに影響しているのがはっきりわかるので、走行音で形式を判別できて面白いです。また、想定していたよりも列車が長ったためにマイクの直近で汽笛が鳴ってしまい、9600の汽笛を爆音で聞くことができます。聞く側には嬉しいですが、現場ではヒヤッとしたことだと思います。
これまで聞いた中ではダントツの品質だと思いました。録音品質だけでなくマスタリングやカッティング技術にも力を注いで、音の遠近や音域のバランスなどでリアルな臨場感がありました。国内の主要な蒸気機関車はこのシリーズを買っておけば間違いない、と言っても過言ではないと思いました。
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