UOP-9001 ヒマラヤ鉄道 山岳SL



紅茶の産地として有名なインドのダージリンを走る世界最古の山岳鉄道、ダージリン・ヒマラヤ鉄道。近隣のニルギリ山岳鉄道、カールカー=シムラー鉄道と共に「インドの山岳鉄道群」として世界遺産に登録されています。

イギリスの植民地時代に敷設された軌間610mmのナローゲージで、全長約88km、高低差は約2000mあり、コストのかかるトンネルなどの工法ではなく山間を縫うように造られたため、3箇所のループ線と6箇所のスイッチバックを擁する線路になっています。

機関車はDHR B Classが、イギリスのシャープ・スチュアート製12両、その後継会社ノース・ブリティッシュ・ロコモティブ製16両、アメリカのボールドウィン製3両、ティンダリア工場製3両、合計34両製造されました。現在は運行中の2両の他に1両が静態保存されているのみのようです。

蒸気機関車の老朽化に伴い一度は全線でディーゼル機関車に置き換えられたそうですが、一部区間でのみ蒸気機関車の運用が復活しました。その機関車の修理はティンダリア修理工場が担っていて、1881年の開業当時から職人が専用パーツを手造りする製法が継承されているそうです。運行方法も当時のままというのが大変面白く、塊の石炭を砕く人やデッキにしがみついて砂撒きをする人がいるそうです。

2023年現在、「Tusker」と「Victor」の2両がグム―ダージリン間(地図の赤丸間)で運行しているようで、公式HPで時刻表が確認できますが、夏季はモンスーンの影響で一ヶ月ほど運休する期間があるようです。

列車の運行はインド鉄道が行っていて、Darjeeling Himalayan Railway Societyというイギリスの団体がその支援活動をしており、有志会員を募って世界遺産登録後の報告活動や写真集の販売などを行っています。  

また、2023年6月に19Bという機関車のオークションが行われました。この機関車は、ダージリン鉄道向けに造られた機関車の中で唯一国外へ流出した車両で、アメリカのヘストン博物館に静態保存されていたのをイギリス人愛好家エイドリアン・シューターが購入して復元し、フェスティニオグ鉄道などイギリス各地で運行されました。シューターが2022年に亡くなり、拠点としていたビーチズ軽便鉄道に保存されオークションにかけられました。そして、2両の客車と共にスタットフォールド・バーン鉄道が落札し、保存や教育、技術継承を目的としたトラスト団体が設立されました。今後はイギリス各地で運行される予定のようです。

このレコードに収録されているのは地図の黄線(A面)と青線(B面)区間で、ディーゼル化前の録音です。録音当時、遅延や運行停止は日常茶飯で、速度が遅いため途中乗車下車、無賃乗車は当たり前というカオスぶりだったそうです。もはや交通機関として破綻しているのでは…(笑)という体ですが、トイトレインの名で親しまれ今でも根強いファンがいるそうです。何とも憎めない、愛らしい鉄道だと思います。

走行音は「トイトレイン」の呼び名からは想像できない激しいブラスト音を響かせています。汽笛も楽器のような独特の音。そして、このシリーズ定番?の民族音楽が異国情緒を誘ってくれます。添乗録音では賑やかにおしゃべりしていた乗客たちが陽気に歌いだし、道路近くの録音では挨拶かのようにクラクションが鳴り響きます。ダージリン駅での録音でも見物人がたくさん集まってきて、ざわざわと賑やかな様子が録音されています。“インドらしい”というイメージそのままのような気がします。

続いてループでの録音を聴いていると、必死に登ってくるブラスト音が過ぎ去る前に別のブラスト音が聞こえてきます。当時は2両~4両編成の列車を続けざまに発車させる時間帯があったそうで、ループの上段から覗くと後続の列車が一直線に一緒に写真に写るほどの間隔だったようです。

また、地図上の青線区間のちょうど真ん中辺りにガヤバリのループがあり、ビューポイントになっているそうです。そこでの録音ではガヤバリ駅に向かう列車が山間に響かせるブラスト音を聴くことができ、解説書の写真も手伝って山岳鉄道ならではの雄大な景色が想像できます。

収録されている機関車は1形式のみで線路も1路線のみ。海外取材であれば持ち込める機材も限られる…と、冗長なレコードかと思いきやとても面白いレコードでした。このシリーズで現地の民族音楽を聴くのが楽しみになってきています。

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